仙台坂
仙台坂の上の家はまだ遺っていた。『海野十三敗戦日記』によると、
昭和20年7月29日その家で酒宴が開かれた。その家の主がえらくなって、
海野十三と友人二人を招待してくれた。前々月5月に「ジャガイモを腹一杯食べたい」
と言っていたのに、その日は肉、魚、、酒もふんだんにあって宴は盛り上がった。とはいえ
時勢柄、都電はもう終電になると言われ、8時過ぎにその家を出た。仙台坂を下り二の橋の
停留所へ向かう。五反田方面の都電というから、4番だろうか。空襲警報の鳴るなか、灯りを
消した都電は走る。それから72年、都電はとっくの昔に廃止され、二の橋付近には
高速道路が走り、地下鉄の駅も近くにできた。それでもその家は健在である。
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