071:次元
(春畑 茜)
二次元の午後いや増せる敗色に捨駒として銀将を置く
(さよこ )
糸電話を通して聞える四次元に遊べる少年少女らの声
(前野真左子)
Web閉ぢて窓開け放て 異次元に憑かれて浮腫む脳(なづき)を冷やせ
(水須ゆき子)
異なった次元に暮らす二人なり塩烏賊なんぞ茹でて語らう
(花鳥 佰 )
日本の古本屋より飛んできた塚本邦雄と四次元に逢ふ
072:インク
(畠山 拓郎)
あの時やその時のこと忘れ得ずインクの染みの如くに残る
( ベティ)
ゲートインクライマックス命運を賭け駆け抜けよ桜の舞台
(ピッピ)
ときどきは影のインクが足りなくて赤い絵の具で伸ばす夕暮
(秋中弥典)
宛先のインクがにじむ冗談ですませるはずの絵葉書を出す
(五十嵐仁美 )
藍色のインクに落ちるぼたん雪手紙の最初は「今日から冬です」
073:額
(船坂圭之介)
桔梗(きっきょう)の濃ゆき薄きをかかへ来て午後の額をひとは白くす
(ハナ)
自動ドアみたいに開けて閉じられて汗も見せない夫の額
(望月暢孝)
富士額というにあらざる一葉の五千円札今日は飛ばさぬ
( もりたともこ)
ひとつだけ残った額の賞状の昔の姓がはねる時々
(内田かおり)
少しずつ家族写真の色薄れ四角い額に閉じられし笑み
074:麻酔
(那賀神 哲)
君がもし 麻酔もなしに この恋を 切るというなら 手向かいします
(麻生智矩)
麻薬とか麻酔とかなぜ痺れさすものに冠せる麻なのだろう
(林 ゆみ)
十までを数え切れずに堕ちてゆく麻酔が作る白き眠りへ
( ももか)
やすらかといふ死に方の選択肢麻酔老衰まして春眠
(井上佳香)
マンゴーのあまいかおりを想像す落つる間際は麻酔のごとく
075:続
( さよこ )
父, 兄の後に続きて自転車のペタル漕ぎたり彼岸に向けて
(丹羽まゆみ)
留守電の君は己の死を知らずわずかな留守を伝え続ける
(上澄眠)
赤い糸もつれさせつついつまでも二人続けるあやとり遊び
( 矢野佳津)
目醒めたるあとの思考をひんやりと夢の余韻のうちに続ける
(牧野芝草)
遠ざかる海岸線に続く道 勝鬨橋から吹いてくる風
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