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お題べつ好きな歌(100:マラソン)

(宮まり)
一度だけ優勝しましたマラソンで比叡の風が冷たかりしよ
( クロネコ)
このマラソン 変な歌ばかり 書き過ぎた 今更やり直し できないですか…?
( かすいまこと)
素人の怖さ知らずで走り出し やっと完走 短歌マラソン
(松山宮崎)
早朝のマラソン練習ただひとり日の出に闘志明日はアスリート
(水須ゆき子)
書く日々と書かぬ日々とを較べつつマラソンコースを歩き終えたり
(五十嵐きよみ)
「マラソン」と題した九十九コマのフィルムをひたすら走ル私ハ
(さるた)
良い知らせしたくて駆けたマラソンも名利の為の末世の競技
(五十嵐正人)
息切れたマラソン人は怨霊となりてネットを夜毎に走る
( 荻原裕幸)
マラソンの走者まばらに過ぎてゆく沿道で永遠を見てゐた
(汐見ハル)
マラソンを走ったことのないひとのほとんどで世界はできているんだ

お題べつ好きな歌

096:留守
(斉藤真伸)
留守電のランプはひかる懐かしきわが友のこえ一つ抱きて
(佐藤理江)
昼間いつも留守の家だが紛れなくだれかが棲みて朝ゴミを出す
( 鈴木博太)
読みかけの本を閉じれば葉月だろ留守にするのも悪くはないか
(紫峯)
はかなくて秋咲く花のか細さにただ一日(ひとひ)すら留守には出来ず
( きじとら猫)
迫りくる国勢調査の足音が ドアに張りつき居留守を使う
097:静 
(さよこ)
春の雨糸引くごとく降り続く静かに二人の溝広がりて
(スナフキン)
静寂を破る震災20秒 10年たてど傷遺りけり
(佐藤理江)
静電気指を走りてわたくしにおそらく青き回路がひらく
(花鳥 佰 )
屋根を撃つ霰の音ははげしくて裁ち鋏の刃静かにひかる
(島田牙城 )
田中裕明の葬儀に始まりし一年なるを静かに閉づる
098:未来
( りり)
この先の未来を想い描いてもなんとなく暗い世の中だよなぁ
(白玉だんご)
録画とは未来の時間を食いつぶし過去をわざわざ繰り返す技
(藤苑子)
あかねさす日は過ぎにけり翌朝の未来にむけて吾は夜を眠る
(五十嵐きよみ)
からっぽの揺り篭ゆれるモノクロの記憶みたいな私の未来
(村田 馨 )
短日やお台場海浜公園の駅の未来を予想しようか(ゆりかもめ:お台場海浜公園駅)
099:動
(那賀神 哲)
あと少し 高鳴る鼓動 静めつつ 恋のはじめと 似るを楽しむ
(畠山 拓郎)
何もかも動きが早いゆっくりとじっくりやれといつも言われる
(飛永京 )
それなりに蠢動します雨をうけ珍竹林も妙竹林も
(川内青泉)
少し前昼の準備に動きしが今は静かに短歌を作る
(笹田かなえ)
身動きの出来るほどには生かされる食べる薬を飲むため食べる

お題べつ好きな歌

091:暖
( さゆら )
暖かき潮(うしほ)に灼けし腕(かひな)もつ兄がわたしにいたのではもしや
(津山 類)
「菓子屋の暖簾分けよう」とそれとなく聞きそれとなく言ふ風委せ
(佐藤理江)
その後はつひぞ語られざる話暖炉に焼けし狼の灰
( 池 まさよ)
すっぽりときみの右手におさまってゆっくり暖められる心臓
(遠山那由)
陽だまりの暖もりに眠る猫たちよ まどろみ方を教えてほしい
092:届
(春日山)
機能する届けによりて生も死もなれど縁者の裡の生死は
(参田三太)
詠むならばうたは共感共鳴だみんなに届けわが叫び声
(中村悦子)
にっぽんをぽんぽんに詰めたわたくしをスウェーデンに届けに行きます
(近藤かすみ)
地に足が届かないから思ひきり膝で漕ぎます秋のブランコ
(井口 瑛里)
誰にも届けるつもりのない言葉あふれさまようブログの海
093:ナイフ
(宮野友和)
ぎこちなくナイフを使ひ僕が剥いたりんごをこんなにも喜ぶなんて
(岩井聡)
午後の風ナイフのように光る川やさしい順にすり減ることば
( minto)
秋の野の薄かるかや三日月はナイフのやうに冷たく光り
(水須ゆき子)
休日の夫は髭を浮かべつつ錆びたナイフのように眠りぬ
( ひぐらしひなつ)
ペインティングナイフ滑らせ消えそうな鳥の記憶を青くとどめる
094:進
(葛城 )
ゆるゆると進めよ淡き香を抱きて花の盛りを急ぎたまうな
(大西蒼歩)
人類は如何に進むか海面は膝の下まで冷やして来たり
( 矢嶋博士)
ヒトといはれるモノがなにかすればすべて死ぬヒト進む食ふために
(上澄眠)
押し花はこんこん眠る旧版の『日本十進分類法』に
(美作直哉)
朝一の詫びの台詞が纏まらぬ 通勤電車はうだうだ進み
095:翼
(今岡悦子)
上空の翼はなすがままにあり、さあれどわれの地を這うムシは
(史之春風)
翼など持っていたとて何になる私を囲う見えないケージ
(飛鳥川いるか )
砂浜にそびら光らせをみならよ翼なきこと涼しとおもふ
(佐原みつる)
イカロスの翼だったか ゆっくりと舞い落ちた白い羽根を手にして

お題べつ好きな歌

086:占
(謎野髭男)
わが心あまりに狭く占むるものあまりに多く溢れかえれる
( 柳子)
0歳児家族の団欒ひとり占め四世代住む家の明るし
(矢野佳津)
アドレスはizumishikibuを登録し歌占人とならむか蛍よ
(櫂未知子)
どこかしら占領軍の味のせりぶつ切りの肉浮かべる汁は
(皆瀬仁太)
占有率3%未満にて夫といふは寂しき他人
087:計画
(今泉洋子)
出会ひしは都市計画課明暗の時を静かに重ねつつ来て
(望月暢孝)
十字架に似た電柱の根をめがけ計画的に来るユダは犬の名
( 高崎れい子)
革表紙の手帳の夏の計画の白いページに蜻蛉がとまる
(大辻隆弘)
計画をしたといふのにうらぶれて菊坂なんど下りき、といふ
(春村蓬 )
原つぱに犬はすずしくあらそひぬ都市計画の網かむる草と
088:食
(斉藤真伸)
食堂に酢が匂いたつ昼下がり母は頭痛に耐えているらし
(遥悠(天晴娘々))
浸食の速さをとほい星に見る 笑へなくても気にしないんだ
(常盤義昌)
愛国の愛は何なる 昼食に一尾の鮎を皿に裂きつつ
(林 ゆみ)
デニッシュが並ぶパン屋の隅っこの甘食ふたつ連れて帰ろう
(小池尹子)
母の書く文字近ごろ膨らみてご祝儀袋を食み出さむばかり
089:巻 
( やそおとめ)
この世ならぬこゑは四巻「夕顔」の「をちかたびと」と呼ぶあたりから
(丹羽まゆみ)
連綿と続く矛盾を包むがに春キャベツ巻く雨の土曜日
(黒河更沙)
ぜんまいを巻くことなかれ 休むことを知らずに動いた古時計なら
( mamaGON)
久々に一人ひょこんと訪い来たる息子は海苔巻きのようになつかし
(五十嵐きよみ)
誰もみなきっといずれは消えてゆくビデオが巻き戻される速度で
090:薔薇 
(さよこ )
誕生日の薔薇の花束軒先に逆さになりて風に乾けり
(足立尚彦)
棘持たぬ薔薇が薔薇として売られ何かが決まっていそうな気配
(篠田 美也 )
瞳(め)には星、背後に薔薇を背負つてゐる少女漫画を捨てられぬ訳
(恩田和信)
少女たること許されぬ時代あり薄口紅も薔薇の刺繍も
(青井なつき)
あの父が真紅の薔薇を買ったから母は真紅の薔薇なのだろう

お題べつ好きな歌

081:洗濯 
(さよこ)
外出を嫌いて家に閉じこもる母の心を洗濯しよう
(今泉洋子)
「夕立に洗濯されてきれいか」と子が指す空は洗ひたての青
( 丸井真希)
今はただ無意識な動作だけしたい歯磨きしよう洗濯しよう
(住職(jusyoku) )
洗濯をしたばかりのシャツを畳み、袖通す人なきことを知る。
(櫂未知子)
いまだ見ぬ腸を洗濯するためにこんにやくを買ふしらたきを買ふ
082:罠
(船坂圭之介 )
南国に雪ふり果てて月旦のしずかなりこれ罠かもしれず
(落合朱美)
レジ横は小さな罠の羅列なりボトルガムなどつひカゴに入れ
(史之春風 )
君が読む心理テストの選択肢 どれかが罠でどれかが嘘で
(萱野芙蓉)
分かると言ひ判る解るとうなづいて擦れ違ひゆく共感の罠
(みやちせつこ )
罠にかかりし狼ロボの声がしてシートン動物記しずかにとじたり
083:キャベツ   
( 宮まり)
春キャベツの巻きのあまさよスカスカと春陽に眠る頭のようだ
(舟橋剛二)
明日などあてにするなと言いたげにキャベツ畑を夕陽が照らす
(みあ)
やわらかな春のキャベツをめくるようわたしの中の頑なを剥ぐ
(敏恵)
キャベツの葉剥いても剥いても実が見えず会話の続かぬ空間の如く
(美里 和香慧 )
透明な薄日やさしいくちづけにはにかんだ芽キャベツの水浴び
084:林
(船坂圭之介)
きわやかに一樹立ちたり秋の空の深き林の風しきりなり
(春日山 )
林道に雪の残りて凍てゐれど陽の射すところ小さき虫這ふ
( さよこ)
立錐の余地なく立てる会場に人らそよげり林のごとく
(如月初香)
否定され尽くしたような日のおわり林をわたる風の音きく
(嶋本ユーキ)
林立の高層ビルへ深呼吸負けてたまるか負けてたまるか
085:胸騒ぎ
(謎彦)
胸騒ぎしづめむときも眼薬を左と右にたつぷりと差す
(黒田康之)
警鐘のつもりであるか防災のニュースは胸騒ぎだけを残して終わる
( 浜田道子)
夜もすがら胸騒ぎして醒めゐしに明くれば常の朝が来ており
(野良ゆうき)
はるかなる少年の日の胸騒ぎあしたしずかに燃える地球儀
(小野糸屯足各 )
胸騒ぎした時はもう遅かったもう戻れない1本の道

お題べつ好きな歌

076:リズム
( ドール)
見る人の角度によって異なった色に輝くプリズムに似て
(内田かおり)
親指でリズムを刻む少女いて満員電車の中の虚空は
(西村玲美)
定まらぬリズムを刻む心臓の或いは命ふたつ保てり
(星桔梗)
この子には明日のリズムを教えよう 躓き方も覚えて欲しい
( 皆瀬仁太)
組み体操のリズムはすこし乱れるもほしぐみ十七名のふじやま
077:櫛
(林本ひろみ)
櫛の目の土器を残した人たちが暮らした同じこの星に住む
(ピッピ)
櫛ももう難読漢字になるだろうブラシにあてる文字が足りない
( 中瀬真典)
玉櫛笥(たまくしげ)ふたたび見たし微笑めばたちまち咲(ひら)く水原紫苑
(美濃和哥)
櫛だけは拾ったらあかんよそのひとの業がひっついとるからねえ
(立花るつ)
櫛通す余裕もないまま髪まとめゴミを出す朝 ああ生きている
078:携帯
(エクセレント安田)
バスツアー 酔い止め薬 携帯よ もしものときに 役に立つから
(林義子)
席に座す八人の中の六人が携帯打ちてる夕べの車内
(上澄眠 )
はるはやて携帯するのはあくまでも名前であって彼らではない
(内田かおり)
アメリカの道端にいる君の声を裏庭で聞く携帯電話
( 篠田 美也)
携帯の中に棲まひしいちにんが消えて手許にさす晩夏光
(ももか)
携帯のメール受けをり葬列の後方にゐて夕食のこと
079:ぬいぐるみ
(蜂田 聞)
憎しみがときに頼みとなれることぬいぐるみ手にしたるころから
(ハナ)
ぬいぐるみだって思っていいですか抱いて眠って最後に捨てて
(林 ゆみ)
薄汚れもう飽きられたぬいぐるみみたいに転がされてる夜更け
(高澤志帆)
   9月、おともだち
ぬひぐるみ爆弾の降る夕ぞらの拾ふなよそれはともだちぢやない
(荻原裕幸)
目が釦だつたりもしてぬひぐるみにぬひぐるまれる冬の重力
080:書
(畠山 拓郎 )
久方に字を書くことに難儀する原稿用紙と格闘している
(今岡悦子)
借銭の証文なども書となりて額におさまり恭しく読む
(17番)
右脳から絶えずこぼれる言の葉を書いては消してを繰り返す秋
(游 ききあ)
外で待つ 会社に宛てた領収書もらうあなたを見たくはなくて
(久慈八幡)
書くことは冷静なはずなのになぜかパソコンが吐き出す感情 

お題べつ好きな歌

071:次元
(春畑 茜)
二次元の午後いや増せる敗色に捨駒として銀将を置く
(さよこ )
糸電話を通して聞える四次元に遊べる少年少女らの声
(前野真左子)
Web閉ぢて窓開け放て 異次元に憑かれて浮腫む脳(なづき)を冷やせ
(水須ゆき子)
異なった次元に暮らす二人なり塩烏賊なんぞ茹でて語らう
(花鳥 佰 )
日本の古本屋より飛んできた塚本邦雄と四次元に逢ふ
072:インク
(畠山 拓郎)
あの時やその時のこと忘れ得ずインクの染みの如くに残る
( ベティ)
ゲートインクライマックス命運を賭け駆け抜けよ桜の舞台
(ピッピ)
ときどきは影のインクが足りなくて赤い絵の具で伸ばす夕暮
(秋中弥典)
宛先のインクがにじむ冗談ですませるはずの絵葉書を出す
(五十嵐仁美 )
藍色のインクに落ちるぼたん雪手紙の最初は「今日から冬です」
073:額
(船坂圭之介)
桔梗(きっきょう)の濃ゆき薄きをかかへ来て午後の額をひとは白くす
(ハナ)
自動ドアみたいに開けて閉じられて汗も見せない夫の額
(望月暢孝)
富士額というにあらざる一葉の五千円札今日は飛ばさぬ
( もりたともこ)
ひとつだけ残った額の賞状の昔の姓がはねる時々
(内田かおり)
少しずつ家族写真の色薄れ四角い額に閉じられし笑み
074:麻酔
(那賀神 哲)
君がもし 麻酔もなしに この恋を 切るというなら 手向かいします
(麻生智矩)
麻薬とか麻酔とかなぜ痺れさすものに冠せる麻なのだろう
(林 ゆみ)
十までを数え切れずに堕ちてゆく麻酔が作る白き眠りへ
( ももか)
やすらかといふ死に方の選択肢麻酔老衰まして春眠
(井上佳香)
マンゴーのあまいかおりを想像す落つる間際は麻酔のごとく
075:続 
( さよこ )
父, 兄の後に続きて自転車のペタル漕ぎたり彼岸に向けて
(丹羽まゆみ)
留守電の君は己の死を知らずわずかな留守を伝え続ける
(上澄眠)
赤い糸もつれさせつついつまでも二人続けるあやとり遊び
( 矢野佳津)
目醒めたるあとの思考をひんやりと夢の余韻のうちに続ける
(牧野芝草)
遠ざかる海岸線に続く道 勝鬨橋から吹いてくる風

お題べつ好きな歌

066:消
(武田ますみ)  
消音のテレビ画面を見るようだホテルの窓から眺める街並
(廣西昌也)
一子って声だしたのちサイレンス消えたものほど存在となる
( あみー )
送信の履歴は消した 淋しさの正しい伝え方が知りたい
(前野真左子)
留守電に間違いひとつ 呼びかける声優しくて消しかねている
(やまもとなおこ)
母上の手から雷撃ほとばしり煙をあげて消えうせる父
067:スーツ
(船坂圭之介)
風めぐるなかの孤独に耐えてわがスーツもっとも醜きかたち
( さよこ)
きっちりとボデイ-ス-ツに畳たりチ-ズケ-キの納まる胃の腑も
(我妻俊樹)
(運転を見合わせています)散らかったスーツの中に人がいるのだ
(五十嵐きよみ)
おそろいのスーツケースを並べても別々のもの詰めて旅立つ
(西村玲美)
指先でスーツの皺をなぞるとき乾きかけたるオアシス思ふ
068:四
(天藤結香里)
銀河にも前後左右はあるようで四つ葉のクローバーのような星雲
(仁村瑞紀)
鍵善のくずきりがよい 祇園へと四条大橋渡ってゆこう
(井上佳香 )
山百合を四五本包み新聞紙あなふくぶくと抱えられおり
(村上きわみ)
液晶の林の奥でツーチーと今朝は四十雀が啼いている
(倭 をぐな)
四海波おだやかにして粛々と潜水艦が核運び行く
069:花束
( 謎彦)
にんげんの痕跡として電柱の根元にしばられたる花束
(落合葉 )
ごめんねのかわりに贈る花束はうすい香りでひかえめな色
(唐津いづみ)
誇らしく抱かれるため花束は息とめきつくリボンをしめる
(佐藤紀子)
花束を貰ひて帰ることもなく退職の日が静かに終る
(小池尹子 )
去年の秋五十嵐さんより貰ひたる花束メモ帳に今も戦げり
070:曲
(浜田道子)
ウインドに映るは背(せな)の曲がりたる我かと思うやはり我なり
(林義子)
丘に上り見放く平野に千曲川黒き影伸し蛇行しゆけり
( minto )
婉曲がよしと思へば人は皆頭を低くして紫陽花になり
( きじとら猫)
平穏が紆余曲折の結果なら二度とは着ない花嫁衣裳
(村上きわみ)
褶曲のはてのゆがみもうつくしき誤読となして歩いてゆかな

お題べつ好きな歌

061:じゃがいも
(今泉洋子)
産土(うぶすな)にじゃがいもの花咲き初めて母のいまさぬ母の日近し
(有田里絵)
じゃがいもをただ茹でている夕まぐれほろり崩れるカタチ見守る
(丸井真希)
面倒な凸凹加減だじゃがいもやニキビの痕を残した君も
(八香田 慧(ようかだ けい))
安全を地味に重ねる退屈さじゃがいもの芽をえぐり出すよう
(高澤志帆)
   7月、健康的
包丁で毒の芽ゑぐりしじやがいものやうに家族の美(は)しき穴ぼこ
062:風邪
(斉藤真伸)
第一次大戦のころの年表に「スペイン風邪」の禍々しき文字
(大西蒼歩)
風邪ひかぬ免疫力欲し取りあへず昼食代の四百円欲し
(寺川育世 )
「春の風邪心うましむあきらかに」豊玉発句集には載らず
(仁村瑞紀)
部屋によぶ口実だろうその風邪は 桃缶ひとつコンビニで買う
(折口 弘)
源(みなもと)は君の風邪だといいのにな 二日遅れの咳をしてみる
063:鬼
(花詠み人)
わが父も 鬼になったか 中国で 元兵隊が 殺りく語る
(林本ひろみ)
鬼菅(おにすげ)のツンツン尖った棘の先柔らかすぎる心を隠す
(高崎れい子)
球体を腹の奥より光らせて鬼灯の実の橙は透く
(ぴいちゃん)
軒端より巣立つ子すずめ見送りて鬼の瓦は少し微笑む
(櫂未知子)
点鬼簿の三ページ目に棲むといふ昔愛した人の箸箱
064:科学
(斉藤真伸)
ビニールのヒモに括られ店先に「科学朝日」は黄ばみつづける
(はぼき)
人体の神秘をちょっと科学するわたしの内で起きてることを
(三宅やよい)
「学研の科学」組み立てている少年の耳の後ろに夕闇せまる
(篠田 美也)
絶望がlalala科学の子を生みしゆゑに儚き飛雄といふ名
(水島修 )
欅わたる夏の風なり科学部の部室のドアを叩いてゆけり
065:城
(春日山)
城跡の公園内の一画に象の飼はれて日々孤独なる
(寺川育世)
鬱金の甲虫書架を這ひゆきてつひに『幻影城』に触れたり
(今岡悦子)
それぞれに居場所がありてわが城は夜ともなれば戸を閉て静まる
(唐津いづみ)
いましがた二の腕つまむそのぬくみ結城紬の母に似ていた
(佐藤りえ)
城趾にて雀のような隊列の女子高生をやり過ごし

お題べつ好きな歌

056:松
( 行方祐美 )
松陰嚢(まつぼっくり)からから拾う昼ひなか空に吸わるることなどあらず
( さゆら)
遠巻きにすつとばす道磐代の浜松が枝も皇子の恨も
(遥悠(天晴娘々) )
わたしでありわたしではない松果体 生体時計といふ冷酷に
(今岡悦子)
今なにか通り過ぎたか瓢箪の松に下がれる胴のあたりを
(久野はすみ)
もういまは切り株だけとなりし松 老いたるひざにひだまりを乗せ
057:制服
(黒田康之)
川原には桜草あり制服の少女の歩く匂いのように
(舟橋剛二)
また窓が割られたそうだ制服で隠しきれない闇がはじけて
(有田里絵)
制服に押し込められるはずはない それぞれが持つ十代の色
(野樹かずみ)
散らばってまた集まって散らばって制服たちの平和公園
(みやちせつこ)
制服のネクタイを少しだらしなく結ぶことにも慣れ一学期終わる
058:剣
(村本希理子)
剣山にぷすぷすと刺すチューリップ ニベアミルクを塗りたくる足
(ハナ)
今ここでリダイヤルしてみましょうか?剣のように光る携帯
( こはく)
口数が減っていくのは誰のせい剣先するめのようにふやけて
(篠田 美也)
鯉口を切る、とふことばの暗闇が剣より白き息づかひとなる
(和良珠子)
真剣に歌い給えとひとことも言われぬままに君が代叫ぶ
059:十字
(大西蒼歩)
十字路を右か左かまつすぐか零下の夜のまもなく来る
(やそおとめ)
鉤十字卍どもゑと相似たり歴史がなだれてゆく先の罌粟(けし)
(上澄眠)
見たことのない十字路だ赤い下駄何処かで何かが死んでいる夏
(三宅やよい)
どくだみの十字の花は板塀に輪郭薄き伯母の住む家
(遠野津留太)
照準器の十字(クロス)に敵を捕らえつつ殺戮もまた祈りとともに
060:影
(那賀神 哲)
僕たちの 影が勝手に キスをして 映画のように 仲直りする
(ハナ)
大丈夫だって言い切るあの人の影だけがまだ下を見ている
(橘 みちよ)
炎天の路上にかつてしたやうな影踏まるると死ぬとふ遊び
(如月初香 )
灯のしたにうみおとされた仔猫もう影持ちひとりの命はじめる
(村上きわみ)
ねむれない夜のゆびさき組みあえばふたり影絵の狼と鳩

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