059:ひらがな(原田 町)
岩槻も与野もひらがな「さいたま市」歴史風土も朧となりて
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岩槻も与野もひらがな「さいたま市」歴史風土も朧となりて
ああなべて過ぎしことども有楽座「鐘の鳴る丘」舞台を観しも
柝が鳴って緞帳あがり日常と異なる空気ただよひ来たり
タオル地の熊のプーさん抱きしめて眠りし吾子もはや無精髭
ささやかな贅沢ならむジャグジーのバスにて癒す今日の疲労を
ミカン色の湘南電車遠足と海水浴の思い出のせて
手をのばし爪先たちてガラス拭く以前は楽々届きし窓の
あこがれの青カーネーション贈られてもうしばらくは母親ですか
わが庭に小さき宇宙造らむとコスモスの種蒔きをり暮春
昨日また阪神負けてわがきみの仮面高血圧いよよ心配
米岡元子さんの短説集『夢幻』を読んでから、イワタロコ、という青年とその家族に魅せられています。イワタロコの名前の由来を教えてくれる祖母。煙草をなかなか止められない父親。傾聴ボランティアを始めた母親。「カフェ・魔女」のママドルの叔母さん。それに風来坊の叔父さんまで登場して賑やかです。
一篇、一篇は千六百字、原稿用紙二枚足らずの作品集ですが、作者の筆力はそれぞれの個性を鮮やかに書き分けています。中でも圧巻は「丼の縁」でしょうか。鰻がなにより苦手のイワタロコが、会社の存続を賭けたCM撮影に駆り出されます。巨大な鰻丼の縁を歩かされる、という手に汗にぎる展開。字数に制限のある「短説」の形式を見事に生かした傑作です。余計なことですが、私自身、鰻大好き人間なので、この作品はより美味しいのです。
『夢幻』には「イワタロコシリーズ」64篇の他に、「ステタイルーム」42篇「すみれ」38篇と粒よりの作品が収められています。五十嵐正人さんが解説で(米岡元子さんは、これまで短説作家の誰も立つことの無かった領域に、ただ一人立つ短説作家である)と書かれています。
婚約をほのかに告げて子は帰る大型連休雨の夕暮れ
編み棒も毛糸も長く手にしないパソコンなぞを弄りてをれば
数独なるパズルゲームへ没頭す青葉若葉に肩を凝らせて
幼な児を小脇に抱へ階段を跳ぶごと降りる若さ羨む
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