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マサミ




「夕食の用意をしなくちゃ」
「オレは何でもいいよ」
 椅子に座ったままで、マサミは答える。
「今日はオトーサンの出番じゃないの」
 静江はマサミの背中のボタンを押した。
「オバアチャン、ハンバーグにして」
 マサミは女の子の声になった。
「えーと、変換は?」 
 静江は老眼鏡を掛けて、説明書を開いた。
「性別は男よね。間柄は……と、家族、親戚
の他は友人かなあ。ちょっと違うけど」
 マサミは静江の様子を見つめている。
「年齢はやっぱり二十代よね。今日は、クリ
スマス・イヴだもの」
 静江は食卓にビニールレースのクロスを広
げた。花瓶に赤いカーネーション。昔、母の
日に貰った造花を大事に仕舞っておいたのだ。
 鶏の腿肉はスーパーで買ったものをレンジ
で暖めればいい。それに苺のショートケーキ。
「キャンドルがあれば。いいわ、マサミとジ
ングルベル歌いましょう」
 しかし、マサミは黙ったままだ。
「おかしいわねえ。設定に間違いは無かった
はずだけど」 
 静江はマサミの背中を開けた。
「性別は男、関係は、恋人の項目は無いから、
友人にして、それから歳は二十五で……」
 静江はもう一度、ボタンを押したが、マサ
ミは何も言わない。
「電池切れかしら。説明書の字は細かくて読み
にくいし」
 静江はマサミの頭を叩く。
「痛い! オフクロ、何をするんだ」
「マサミちゃん、ごめんなさい」 
 静江はマサミに頬ずりした。

 

防災訓練




「忘れものないな?」
 和男は娘の由美に聞いた。
「疲れたら、電話しなさい。迎えに行くから」
「大丈夫、それより、お母さんお願いね」
 徒歩で帰宅訓練の由美を見送って、
「おれたちも、そろそろ支度するか」 
 和男は妻の登志子に言った。
 今日は全国一斉の防災訓練の日だ。テレビ
で首相が、落ち着いて行動してください、と
呼びかけていた。和男と登志子はリュックを
背負って、指示された場所へ向かった。お向
かいの山田さんも一緒だ。
「山田さんはおひとりで?」
和男が尋ねる。
「家内は、昨日から腰を痛めましてね」
「それは、大変ですね。足に巻いているのは
ゲートルですか」
「故郷の家を整理したとき、見つけました。
僕は十四で終戦でしたから」
「ずいぶん、大掛かりね。あれ、自衛隊じゃ
ないの」
 和男が登志子の指さす方を見ると、装甲車
から、迷彩服の男がつぎつぎ降りてくる。
「本当に、防災訓練かしら。由美に電話して」
「繋がらないよ。ラジオも雑音ばかりだ」
「立ち止まらないで、早く歩け」
 武装した男が命令した。
「家内を連れてこなきゃ」
 山田さんは引き返そうとしたが、羽交い絞
めにされた。
「あなた、B29よ」
 登志子の叫び声が遠くなった。
「空襲警報発令!」
 サイレンが響く。幼い和男は、母親に手を
引かれて駆け出した。人の死体を踏んだが、
かまわず走った。

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