お題べつ好きな歌
081:洗濯
(さよこ)
外出を嫌いて家に閉じこもる母の心を洗濯しよう
(今泉洋子)
「夕立に洗濯されてきれいか」と子が指す空は洗ひたての青
( 丸井真希)
今はただ無意識な動作だけしたい歯磨きしよう洗濯しよう
(住職(jusyoku) )
洗濯をしたばかりのシャツを畳み、袖通す人なきことを知る。
(櫂未知子)
いまだ見ぬ腸を洗濯するためにこんにやくを買ふしらたきを買ふ
082:罠
(船坂圭之介 )
南国に雪ふり果てて月旦のしずかなりこれ罠かもしれず
(落合朱美)
レジ横は小さな罠の羅列なりボトルガムなどつひカゴに入れ
(史之春風 )
君が読む心理テストの選択肢 どれかが罠でどれかが嘘で
(萱野芙蓉)
分かると言ひ判る解るとうなづいて擦れ違ひゆく共感の罠
(みやちせつこ )
罠にかかりし狼ロボの声がしてシートン動物記しずかにとじたり
083:キャベツ
( 宮まり)
春キャベツの巻きのあまさよスカスカと春陽に眠る頭のようだ
(舟橋剛二)
明日などあてにするなと言いたげにキャベツ畑を夕陽が照らす
(みあ)
やわらかな春のキャベツをめくるようわたしの中の頑なを剥ぐ
(敏恵)
キャベツの葉剥いても剥いても実が見えず会話の続かぬ空間の如く
(美里 和香慧 )
透明な薄日やさしいくちづけにはにかんだ芽キャベツの水浴び
084:林
(船坂圭之介)
きわやかに一樹立ちたり秋の空の深き林の風しきりなり
(春日山 )
林道に雪の残りて凍てゐれど陽の射すところ小さき虫這ふ
( さよこ)
立錐の余地なく立てる会場に人らそよげり林のごとく
(如月初香)
否定され尽くしたような日のおわり林をわたる風の音きく
(嶋本ユーキ)
林立の高層ビルへ深呼吸負けてたまるか負けてたまるか
085:胸騒ぎ
(謎彦)
胸騒ぎしづめむときも眼薬を左と右にたつぷりと差す
(黒田康之)
警鐘のつもりであるか防災のニュースは胸騒ぎだけを残して終わる
( 浜田道子)
夜もすがら胸騒ぎして醒めゐしに明くれば常の朝が来ており
(野良ゆうき)
はるかなる少年の日の胸騒ぎあしたしずかに燃える地球儀
(小野糸屯足各 )
胸騒ぎした時はもう遅かったもう戻れない1本の道
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