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お題べつ好きな歌(038:横浜)

(鈴木貴彰 )
横浜と聞いた気がする 蜃気楼の海にひびいた汽笛の果ての
( 唐津いづみ)
かのひとの横浜の居所は新しい開けた街の名 どこにもあって
(古内よう子)
わたしたち 別れるために横浜の観覧車に乗ったのかもしれない
(織田香寿子)
越前に生(あ)れて五十路のわれ未だ行かぬ横浜ただに美し
(雪之進)
またひとつ銀幕を閉づ 故き良き猥雑な街横浜(ハマ)のキネマは
(水須ゆき子)
アクセント強く呼ぶとき横浜は夕焼け色のカクテルになる
(望月暢孝 )
高き処に上がりたがるは人の性横浜は崖の切り立つところ
(大辻隆弘)
横浜といはば風吹く汽車道を歩みゐしこと、批評に負けて
(新明さだみ)
てとつてとてとつてとと歩く桟橋に犬がいる くちびるを舐める横浜
(佐藤麦)
横浜で会って別れて以来なり薔薇は褪せたか猫は癒えたか

お題べつ好きな歌(037:汗)

(谷口純子)
ジンギス汗クビライ汗の宮廷に長毛の猫そよぎていしか
(丹羽まゆみ)
全身に真夏の汗を光らせる原生林のような少年
(有田里絵)
労働の汗がしみ込むワイシャツは洗濯の吾が最後に触れる
(ドール)
汗なんてかかず喪服で挨拶をただ繰り返し終わっていた夏
(青野ことり)
ひかがみをひとすぢつたふ汗 夏の気配を籠めてむせ返る森
(仁村瑞紀)
汗のほか嘘や噂のしみこんだシャツを洗おう 音立てて じゃぶ
(武山千鶴 )
手のひらの冷たい汗を感じつつ申し開きの下書きをする
(中瀬真典)
石走る垂水のごとく頭(づ)の上に汗かく我はスポーツ嫌ひ
(久哲 )
本日の雨は確かにいくぶんかあなたの汗のようで戸惑う
(佐藤りえ)
汗知らず構えた母の表情が思い出せない此岸の夜明け

お題べつ好きな歌(036:探偵)

(春畑 茜 )
探偵の肩書などを持つ女(ひと)も紛れておらむ成田午後四時
(川内青泉)
ガラス割る子らを調べる嫌な日よ我はしがない探偵もどき
( さよこ )
10日間夫の素行を探偵にたのべば心晴れ晴れとせり
(やそおとめ)
名探偵神津恭介登場の本と揺れゐる夜汽車の木椅子
(斉藤そよ)
探偵に尾行されてることにしてプロムナードをひらひらと行く
( M.東矢)
霧の濃き朝方の夢バートラム・ホテルに探偵のほくそゑむ
(島田 久輔 )
超豪華10大付録の4番目探偵手帳はみんな持ってた
(三宅やよい)
肩落とし階段上がる中年の夏空に散る少年探偵団
(魅弥華韻)
探偵がコート忘れているような小春日和のさびしさを言う
(片岡 幸乃)
探偵も暇な一日は木洩れ日の珈琲テラスにゐるかもしれぬ

ゼームス坂




 ゼームス坂の槐は葉を落とし始めていた。 
 妹がこの坂の途中にあるアパートで暮らし 
ていたのは、三十年くらい前のことだ。木造
の古びた建物で日当りが悪かった。当時、妹
は職場の男性と長く付き合っていた。   
「結婚が決まらないうちに家を出るなんて」 
 蒲田でひとり暮らしになった母はこぼした。
わたしは結婚して、大宮の建売住宅に住んで 
いた。                  
「結婚したいなら、お袋に頼んでくれなんて 
言うのよ」                
 ある日、妹はわたしに訴えた。彼は旧華族
出の母親とふたり暮らしだった。ほどなく妹
はアパートを出て、蒲田の家に戻ることにし
た。わたしは夫の車で、引越しの手伝いに行
った。     
 ゼームス坂の槐は薄黄色い花を咲かせてい
た。槐の名前はそのとき、妹から教えられた
ものだ。
 脳梗塞で母が亡くなるまで、妹は独身だっ
た。数年して、妹から結婚することにした、
という電話があった。        
「彼は再婚でね。母親付きなの」      
「今さら、そんな難しい人と結婚しなくても」
「大丈夫よ。わたし負けないから」     
 電話から妹の笑い声が響いた。      
 五年後、妹は交通事故で急死した。     
「どうして、ああいう人と結婚したのかしら」 
 通夜の席で、従姉妹のひとりが囁いた。わ 
たしは義弟の細身で撫で肩の後ろ姿を見た。 
「最初の人と似ている気がするのよ。妹には 
言えなかったけど」            
                     
 大井町へ行く用があって、その帰りにゼー 
ムス坂を歩いてみた。妹の住んでいたアパー 
トは、見つけることが出来なかった。    

                    
                     

お題べつ好きな歌(035:禁)

(宮まり)
禁止される事がどんどん減ってゆき人は大人になってゆくのか
(舟橋剛二 )
禁煙の貼り紙ばかり目につくが空気は少し錆びた味して
(吉田貴美子)
窺えば立ち入り禁止踏み込めば土足厳禁 子らの思春期
(里坂季夜)
スペースをうまく空けられないんです 駐車禁止にしてある心
(ジテンふみお)
二度づけを禁止している串かつのソースの底に店主のあくび
(敏恵 )
神々が禁じた領域侵すごとわが子の頭のMRIを見る
(嶋本ユーキ)
解禁日水面に銀の波立てて糸の先には夏も小鮎も
( 浦好 )
親子とはまこと遠慮な関係よ特に「結婚しろ」とは禁句
(矢野佳津 )
背表紙の禁帯出のシールにて封じられたる『歌語大辞典』
(長沼直子)
このひとがあのひとならとふと思う遊泳禁止の海はオレンジ

お題べつ好きな歌(034:背中)

(岩井聡)
背中まであと何分と囁けば夜は二つの心ごと蜜
(村本希理子)
ガス管をくはへて死にし物書きの背中の死斑明るかりけむ
(浜田道子)
湯上りの夫の背中の痩せたりと不意に思ひて涙したたる
( こはく )
背中から眺めてみてもうつくしいたたずまいで立つ歌であるなら
(吉田貴美子)
いつか背中にピンを刺されて並ぶかも「サル目・ヒト科・ホモ・サピエンス」
(史之春風)
背中にはむかし翼があったのぞ さよう名残りが肩甲骨じゃ
(あきひろ)
三面に親子の惨事見るにつれ 背中合わせの家族を思う
(和良珠子)
わたしたち完膚なきまで親友で決してお互い背中を見せない
(おやなぎしま)
この背中(せな)をそっと支える神さまのみ手のぬくもりまた秋がきた
(水月 秋杜)
樹冠より高きところに横たはるひとつの背中紐育にゐて

お題べつ好きな歌(033:魚)

(はぼき)
白魚のような指だと褒めてみる実物は見たことがないけど
(島菜穂子)
春告げにわが喉元を訪れし素魚(しろうお)明るき弾力に満つ
(植松大雄/SERENO)
流木を掴めばむかし勇魚捕りだった親父の掌がある
(すずめ)
出しそびれ胸に留まるラブレター密と消しゆく時と云う紙魚
(前野真左子)
独りなる身を映しゐる川底の魚影にひとつ小石蹴りこむ
(嶋本ユーキ )
涙までぐんにゃりひしゃげた街角は魚眼レンズと同じ気持ち
(ひぐらしひなつ)
読み倦んだ安吾そののちたそがれの魚になって書斎を泳ぐ
(紫蘇女)
人間は魚だったと聞いたから捌かれたくてこの身を開く
(市川 周)
仰向けになっても空は見えなくてぼやいてみても魚は死際
(倭 をぐな)
人ひとり乗りし魚雷がかつてあり若き命も部品のひとつ

お題べつ好きな歌(032:乾電池)

(谷口純子)
乾電池の残量すくなくなりたるを喩に使うことかなしすぎるよ
( あきひろ)
取り替えの利かない私の乾電池いつ切れるやらメーターもなく
(廣西昌也 )
乾電池抜いた空虚に指を入れ一子とつながらないか待ってる
(近藤かすみ)
不機嫌な夫を替へたしもう鳴らぬラジオ乾電池替へしそののち
(篠田 美也 )
乾電池のプラスはプラスが好きなのに「反発し合ふ」がいつも正しい
(minto )
不可思議な狐の手袋咲き始め 乾電池には妖精が住む
(影山光月)
乾電池入れるとカタカタ動き出す昔の玩具のような人でした
( コメット )
乾電池切れかも知れぬおし黙るあなたの背中のスイッチを探す
(邪夢)
こうやって握りしめても孵らない つめたく死んだ乾電池では
(かとうそのみ)
真夜中が僕らにくれるドキドキはみんなもれなく乾電池式

お題べつ好きな歌(031:盗)

(やそおとめ )
唇形花(しんけいくわ)の白きくちづけ盗むため十二単にまた逢ひにゆく
(望月暢孝)
幾つかは盗んでほしいものあればドアを開いて今日も待ちおり
(今岡悦子)
茄子苗を三本のこして潜りたる夜盗虫にも理があるらしく
(KADESH)
年度末夢にまで見る帳尻は合わず盗汗でびっしょりとなり
(近藤かすみ)
いまとなれば盗まれしものか君のため与へしものかわからぬ時間
(藤苑子)
楽しみは盗りしモチーフ歌の中丹念に編み込んでいるとき
(青井なつき)
そう、それを閉じてしまえば盗み見ることもできない雨夜の月だ
(美穂)
盗まれて困るものなど何も無い。そう信じつつ防備する今日
(堀田季何)
盗人の放ちしドアに秋風が吹きあたる、ああ、今年も平和
(立花るつ)
蛍光灯チカチカとして疼き出す盗み返した後の傷口

お題べつ好きな歌(030:橋)

(かすいまこと)
橋渡る ただそれだけが冒険で 兄の後追う5つの頃に
(ハナ)
ときどきは橋を渡ってみたくなる帰れる家に飽きてしまった
(吉田貴美子)
ぽつねんと車椅子より見上ぐれば歩道橋とは聳ゆるオブジェ
(野樹かずみ)
ヒロシマの神話のなかから抜け出した人と真夏の橋上にいる
(佐藤理江)
太鼓橋向かふ岸から誰かきて首からしたが徐々に見えくる
(睡蓮。)
ふたりよりひとりで歩くこと多く雨の心斎橋はきらいや
(屋良健一郎)
サメのいる海に架かった橋として平均台を渡ってたころ
(水沢あけび)
潮風に揺れない橋を渡りつつ憶測ばかり軋む夕暮れ
(春村蓬 )
吊り橋の真ん中でふいにポケットの中身を全部捨てたくなつた
(もとよし)
銀の笛抱き都電の夢見れば面影橋はとうに過ぎたり

お題べつ好きな歌(029:ならずもの)

(田貫 砧)
あいつらはならずものだと言う君もならずものだと思うよジョージ
(参田三太)
酔ふほどにならずものになりゆけば羊のやうな平素をかなしぶ
(17番)
我が肩を叩く掌君ならずもの寂しげに返事をしけり
(寺川育世)
誰ひとり愛しえざりきならずもの父は大阪で生きてる らしい
(遥悠(天晴娘々) )
隔たりは痛痒くつて ファスナーを開ければ滲みだすならずもの
(萱野芙蓉 )
ならずものひろゆき兄が手に籠めし蛍わが見し唯一の蛍
(三宅やよい )
擦過傷ならずもののなすびにてだらりだらりと不敵に揺れる
(蝉マル)
ならずもの風でいいのに毛沢東型へとじりじり近づく額
(佐原みつる)
春の風色えんぴつを次々とゆくえふめいにするならずもの
(新明さだみ)
ならずものの息が耳から流れこむ わたしは歌をおぼえてしまう

お題べつ好きな歌(028:母)

(行方祐美)
母とならぬ路選びたり雪の日のスーツケースはひらひら笑う
(花詠み人)
嫌だった 母の笑いの 「がははっはっ」 年経ていつか 同じになった
(宮野友和)
幾年も会はぬ父母よ我二十八のこの一年も無事に過ぎたるよ
(エクセレント安田)
故郷の 母は老いぼれ 我が未だ 所帯持たずに 親不孝なり
(M.東矢)
食卓を物置とする母が居りさうしていつか母を諦む
(野良ゆうき)
今日からは俺がおまえの分母だぜ「1」でまるごと肯定するぜ
(佐藤紀子)
「まるでらつこの貝叩きね」と仰臥して動けぬ母が歌を書きゐき
(雪之進)
痴呆症は認知症だってお母さん、ひとまわりしておうちにかえろう
(ももか)
かつて母体だった細胞に母性が居残っているらしい疲れ
(村上きわみ)
母さまを庭に植えます泣きながら咲いておりますとてもさみしい

お題べつ好きな歌(027:液体)

(宮まり)
液体のような今宵を眠らせて気体のような明後日生きたい
(落合葉)
鉢植えに液体肥料さすように効き目あるもの心にほしい
(黒田康之)
バス停に少女が一人立っていて見知らぬ名前の液体を飲む
(中村悦子)
わが上司粘度の高い液体のようでなかなか時代に溶けぬ
(渡部律)
お固いだけの日々に愛想尽きた液体状のムースを舐め舐め
(柳子)
こぼれても液体ならばすくいあげなくすことなどなかったこの愛
(海神いさな。)
女だし、液体ごと君呑み乾して消滅させるもわけないけどけど。
(Harry)
この星を覆へる液体そのすべて凍りし時のあるとふ説あり
(長谷川と茂古)
だりだりと身体を流るる液体であふるる頃か松尾ヶ原は
(梢子)
一人でも生きてゆくためとろとろの液体匙で子に与えおり

お題べつ好きな歌(026:蜘蛛)

(春畑 茜 )
蜘蛛怖し女の蜘蛛のなお怖しさらりとかわす男はさらに
(大西蒼歩)
近眼の眼鏡はづせば川は州夜の蜘蛛など漢字に見える
(深森未青)
捕食者のかなしみの座の蜘蛛膜はしづかな脳にいと壊(く)えやすし
(有田里絵)
一人寝はもう慣れている天井の隅の蜘蛛にも右手振るだけ
(仁村瑞紀)
思いたち風にまかせて行けるから今度は蜘蛛に生まれてこよう
(武山千鶴)
蜘蛛の糸切れて落ちたる男にはその後日談を訊ねてみたい
(桜井龍斗)
一匹の小さな蜘蛛さえ殺せないカワイイ女じゃなくても いいよ
(ももか)
天網はうつくしいかしら濡れている蜘蛛の巣に朝日がさすとき
( 秋 )
蜘蛛の巣にのこる夕べの涙さえわたしにはもう必要なくて。
(荻原裕幸)
蜘蛛の糸きらきらとして何もない朝をそのまま受け容れてゐる

お題べつ好きな歌(025:泳)

( 船坂圭之介 )
一過せる雨のすずしく 虚言癖持つ児ら嬉々と泳ぐはつ夏
(葛城 )
遠泳に挑むがごとくに生をいく時折不意の波に呑まれつ
(さゆら )
背泳ぎをおぼえし夏がいまさらにどんでん返しの空連れて来る
(村本希理子)
水泳は見学するつて決めてゐる新宿タカノの桃のふりして
( 飛永京)
白波のカリフラワーを海神のブロッコリーを海馬よ泳げ
(島田 久輔 )
思いがけないとこを突かれて目が泳ぐ観覧車はまだ10時の位置に
(折口 弘)
白雲に吸い込まれゆく風船を見る 泳げそうな空 辞めようと決める
(岡村知昭 )
かんたんに幻なんていわないでしずかに進む古式泳法
(本田瑞穂)
道だけの道を泳いでいるようだペダルを漕ぐと風が分かれる

お題べつ好きな歌(024:チョコレート)

(斉藤真伸)
チョコレートの苦味がのこるわが舌がその場限りの愛を囁く
( さよこ)
ポケットに隠せる円きチョコレ-ト虚ろなる時口に入れたり
(丹羽まゆみ)
くれないの空のギブミーチョコレート 見栄は捨てたと目を伏せし父
(冨樫由美子)
チョコレート・グリコ・パイナップル・グリコ・グリコ・パイナップルで天辺
(ゆか)
拒まれているんだろうなビター・チョコレートをつまむ疲労は深く
(emi )
夏はまたなめらかに来てほろ苦いチョコレート飲むたぶん孤独に
(みにごん)
チョコレートパフェを完食した後は生きる意味とかどうでもいいし
(小林看空)
チョコレートほおばりながら見せ掛けの少年でゐる何かが変はる
(キタダヒロヒコ)
きさらぎはチヨコレート溶く出来あひのワタシがいやでどろどろに溶く
( ゆづ)
チョコレートに生まれてくればよかったね 最後は溶けてそれでおしまい

お題べつ好きな歌(023:うさぎ)

(謎野髭男)
飼いおりしうさぎは鼬(イタチ)に喰われけり白き毛皮の骸(むくろ)残して
(尾崎弘子)
抱けるのかだうかで価値が決められた遊園地に飼はれてゐたうさぎ
(那賀神 哲)
雪融けに 姿現す 吾妻峰の 山肌に住む 種まきうさぎ
(大隈信勝)
暁闇に母拵へき塩水を浴みて林檎のうさぎあざやか
(前野真左子)
亡き祖母の貧しき戦後支へたる鶏もうさぎも名など無かりき
(萌香)
寂しいとうさぎは死んでしまうからずっと抱いてて離れていても
(高澤志帆)
   4月、灰野さんちはどこですか?
うさぎおいしい祖母にあはせてうたふなり春の三叉路どちらへ行かう
(藤苑子)
首かしげうさぎ抱く幼子の仕草たぐりぬ青き日々から

お題べつ好きな歌(022:弓)

(穴井苑子)
キューピッドの弓を手にしてみたけれど肝心の矢はどこにあるのか
(黒田康之)
いつか見た弓形の月がビルの上にあるのに僕は君とはいない
(愛観 )
願わくば輝く言葉放つ弓のようでありたい歌を詠むなら
(伊波虎英)
梓弓ヨルガコハイと泣く祖母はわれを夫(つま)とも子とも思へり
(ひぐらしひなつ)
弓形に眉をひくとき心持ちあかるく逸れて跳ぶ草雲雀
(森屋めぐみ)
ずしずしと春の太陽昇り来る弓取り式の力士のように
(敏恵)
弓形に世界を写すシャボン玉違った世界がひとつまたひとつ飛ぶ
(瀧村小奈生 )
なんだって跳び越えられるポスターの少女からだを弓なりにして

お題べつ好きな歌(021;うたた寝)

(花詠み人)
二人して うたた寝してる 図をえがく 妻と僕との八十あたり
(蜂田 聞)
うたた寝に入る間際の浮くような落ちゆくような心地忘れぬ
(丹羽まゆみ )
もう二度とみごもらぬ身を泳がせり大白蓮のごときうたた寝
(宵月冴音 )
春の海に黄砂の降れる夢の果て。
(うたた寝をしたんだ、ほんの百年。)
(ピッピ)
うたた寝の消えない夢は死んだんだ斎場に昇る煙が苦い
( K.Aiko)
降りて来て、書き留められて、蠢(うごめ)いて 飛べない言葉 今はうたた寝
(美作直哉 )
会社でも家でもないからうたた寝を天国行きの山手線で
(PDP)
うたた寝をせずに頑張るアリよりも寧ろ微妙にキリギリス寄り

お題べつ好きな歌(020:楽)

(謎野髭男 )
楠の葉のさやぎきらめき目にすれば春一番の吹くも楽しく
(貿易風)
へこむ日は大鏡(おおかがみ)ある洗面所 写楽の顔を複写してみる
(五十嵐きよみ)
悪口ハ楽シイカラネという真理教わるのど飴と引き換えに
(暮夜宴 )
細胞のひとつひとつが泡立って裏切ればほら楽になれるよ
( みち。)
いきおいで脱げたサンダル追っかけてけんけんぱってまだ、楽しいね。
(花月 香 )
私から好きだといったあの日から楽してませんか長男の君
(方丈いほり)
下宿した子どもひとりの事なのに食器洗いが楽な気のする
(兵庫)
「気楽に」と言わせてしまう もうしわけないようなたださみしいような

お題べつ好きな歌(019:アラビア)

(斉藤真伸)
虚偽ひとつ封をし終えて卓上のアラビア糊は寝静まるかな
( 白玉だんご)
裏向きの「し」より始まるアラビア語書けば右手のこぶしに消える
(岩井聡 )
均一棚にアデン・アラビア積まれもう二十歳は思い出せない季節
(有田里絵)
東でも西でもなくてアラビアが真ん中だった時代もあった
(宮川大介 )
アラビアの場所をいつ頃知るだろう 我が子がせいいっぱい立っている
(紅月みゆき)
うなじから触れられることもアラビア文字みたいに指を絡めることも
(草野由起子)
アラビアの砂漠の砂を掻き分けて摘みしガラスの薔薇の確かさ
( 足立尚計)
アラビア数字の四という字を凝視せり繋ぎ留めたき物多いから

見えないこと




 この頃、見えないことが、多くなったと思
わない? 去年の暮れ、主人が玉突き事故に
巻き込まれたのよ。別に怪我はしなかったけ
れど、修理代が百万円以上かかると、言われ
てね。ところが、車の査定は六十万くらいだ
って。自分の保険を使えばいいけど、こちら
に落ち度はないしねえ。結局、車を買えかえ
ることにしたのよ。
 加害者からは何も言ってこないし、保険会
社とは電話のやりとりだけで、承諾書が送ら
れてきて、それにサインして送り返せば、賠
償金を振り込むというのよ。事務的といえば
それまでだけれど。
 それから、この間、初めて飛行機に乗った
ときも、タラップを上がるものだ、と思って
いたら違うのね。空港ビルの二階から通路づ
たいに、そのまま機内に入るのね。スーパー
シートとかで、後ろの方は仕切られていて、
全然見えないし、だいいち、自分の乗ってい
る、飛行機の形すら見えなかったのよ。
 えっ、見えないほうが良いこともあるって。
 そうかもしれないわ。テレビを付けても、
新聞を開いても、嫌なことばかりでしょ。で
もそういうニュース、すぐ忘れちゃうのよ。
 老眼で世の中、霞んできたのかしら。ただ
見たいものがひとつだけあるのよ。
 孫の顔? 息子しだいであきらめ半分かな。
 一昨日は仲秋の名月だったわね。お団子と
か、ススキとかお月見の用意はしなかったけ
れど、雲も無く月が綺麗に見えたわ。
 わが家の周りもねえ、雑木林が開発されて、
新しい家がつぎつぎ建ってきたのよ。コンビ
ニ、露天風呂、百円ショップが出来て、そう
そう、フットサルの練習場まで出来たのよ。 
 深夜まで明るく、賑やかなのに、ご近所の
人の顔、だんだん判らなくなってきたの。

お題べつ好きな歌(018:教室)

(17番)
階段教室(コロセウム)無言で過ぎる二時間目教師と生徒交える剣無し
(現川尋香 )
教員をしていたときはつらかった教室に入るあの瞬間が
( 愛観)
あの頃は世界の全て教室の窓から見ていた安全な檻
(阿部定一郎)
朝の陽を身にたくわえた教室が今日もどしりとこどもらを待つ
(片岡 幸乃)
戦争は人殺しだよと言ったのは比嘉君だった午後の教室
(柳子)
教室を満たせる重き緊張が役員決まりて一気に解く
( 影山光月)
教室を仕事場とする職に就き五年目の春がゆっくり過ぎる
(遠山那由)
もう二度と行くことはない高校の教室の窓の見えざる格子

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