ジジのつぶやき
「やはり、下見に行ったほうがいいかしらね」
ババはつぶやく。
「たまには一緒に鎌倉へ行きましょうよ」
ババの探題会の下見に、なんでオレが付き合
わなくちゃいけないのか。
結局オレはババと北鎌倉の駅に降りたった。
平日だがかなりの人出だ。
「あそこでお昼、食べて行かない?」
ババが駅前の店を指差す。まだ11時すぎ
たばかりじゃないか、と思ったが、ババの目
的は昼飯より、トイレらしい。ババと出かけ
て、迷惑なのはすぐ、トイレと言い出すこと
だ。それも時間がかかる。
キシュセットとかいう、グラタンとパイの
あいのこのような物を食わされて、店を出
た。これじゃあ腹の足しにならない。
円覚寺を拝観して、踏み切りを渡り、東慶
寺に向かう。いわゆる縁切り寺だ。
石段を上り、小さな山門をくぐる。
「高見順のお墓はどこかしら?ちょっとあの
人に聞いてみるわ」
ババは赤ん坊を抱いて参道を降りてきた女
性に声を掛けた。
「この奥です。案内します」
女性は道を引き返した。参道の左側の小高
い場所に自然石の墓標があった。その傍に丸い
腰掛けのような石の置物がある。
「ここに座って、お乳を飲ませていました」
その女性は言葉を続ける
「高見順の『死の淵より』を読んで、お墓参
りしたくなって来たんです」
墓石の上でもみじの若葉が揺れていた。
「これから、どこを歩かれるんですか」
ババが尋ねる。
「この先の浄智寺に行こうと思います」
« 題詠マラソン2005(11~20) | トップページ | 題詠マラソン2005(21~30) »
こんにちは
短歌と短説。いいですね。女性らしい雰囲気のサイト。
ときどきお邪魔させて頂きます。
我が方にもお立ち寄り下さいね。
投稿: yuurakusya | 2005-05-01 11:51
コメントありがとうございます。玉手箱ときどき開きにうかがいます。
投稿: katorea | 2005-05-01 19:48