ジジのつぶやき
「草取りをしなくちゃね」
ババがつぶやく。ババがこう言いだすとき
は、オレに草取りをやれ、という意味だ。テレ
ビを消して、庭に出ようとすると、
「なんで消すのよ。まだ見てるのに」
自分は炬燵にもぐりこんで、テレビを見つづ
ける気だ。
「たまには、手伝えよ」
「花粉症がひどくて」
ババは鼻のつまったような声をだす。オレ
のみるところ、ババの花粉症はババの都合で
どうにでもなるようだ。自治会の掃除当番の
時などは悪化して、オレにやらせる。そのく
せ、友人と吟行に出かける時は、平気なのだ。
草取りがあらかた終わる頃、ババは庭に出
てきた。大きなマスクに、ゴーグルまで掛けて
いる。オレの手元の草を見て、
「これ、ヴェロニカじゃないの」
「ヴェロニカ?違うよ。オオイヌノフグリと
いう帰化植物だよ」
「ふぐりだなんて。今はヴェロニカって言う
のよ。マツオさんが教えてくれたわ」
おい、マツオって誰だよ。苗字か名前か。
少し慌てたが、ババの俳句仲間と気づく。彼
らはお互い名前で呼び合うらしい。
「マツオさんの俳句、とっても現代的でセン
スがいいって、褒められているの」
「へぇー」
「ホシノヒトミとかルリカラクサって名前も
あるのよ」
まったく、オオイヌノフグリでどこが悪い
のだ。オレは茶の間に戻って、植物図鑑を開
いてみる。なんだ、ヴェロニカは別の花じゃな
いか。
ババはオレの傍で指を折りながら、ヴェロ
ニカや、などとつぶやいている。
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