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題詠マラソン2005(11~20)




o11:都
金杉橋より渋谷行きの都電 橋の付く停留所いくつもありしが
012:メガホン
上役の綽名はメガホン ラッパほど吹きまくれずに残念!
013:焦
そのむかし母が作りしカルメ焼き焦がさぬように膨らむように
014:主義
主義主張異なるゆえに争いが起きるのですと言い張られても
015:友
親友という関係になるまえにブレーキいつも踏んでしまえり
016:たそがれ
たそがれと春夕闇につぶやけば彼は誰の声かえり来るかも
017:陸
『三月は深き紅の淵を』恩田陸ミステリーわがお気に入り
018:教室
教室からいつも見ていし海の埋めたてられて故郷茫茫
019:アラビア
アラビア糊アラビア数字千一夜われに身近なアラビアここまで
020:楽
腹いっぱい食べられ眠れる楽園を子らは捨てたりこのバチあたり

門限




 タクシーを降りて、腕時計を見る。午前1
時30分。夫から言われた門限をだいぶ過ぎ
ている。
「どう、いいわけしようかしら」
 路地のつきあたりのわが家の外灯がまぶし
く見えた。
 知人の句集の出版記念会が終わったのが、
8時過ぎ、それから喫茶店に寄って、お開き
の予定だった。
 学生や若いサラリーマンで賑わう酒場で盛
り上がり、そこで帰ればよいのに調子に乗っ
て、カラオケボックスにも付き合った。
 音をたてないように門扉を閉め、玄関の鍵
を探す。静かだが夫はまだ起きているのか。
 ダイニングキッチンのドアを開けると、テ
ーブルの上がやけにきらきらしている。
「なにしているの」
「見ればわかるだろう」
 夫はこちらを振り向きもせずに言う。
 卓上いっぱいコップや皿などの、ガラス器
が並べられていた。夫はそのひとつを取りあ
げ電灯にかざした。
「こういうのを磨くのは、鹿皮がいちばんい
いそうだが、そんなものはないだろう」
 夫は独り言のように言う。
「リンネルぐらいは、あるかと思ったが、そ
れも見つからない。これで代用したよ」
 夫は緑と黄色の布地を指さした。
「ちょっと、それ……」
「うん。柔らかくて使いやすいよ。うちの奥
さんだらしないから、かわいそうにこんなに
曇らされて」
 夫はブランデーグラスを撫でる。
「エルメスのスカーフよ」
 値段を言いかけて、夫に内緒で買ったこと
を思い出した。
「文句言ってないで、さっさと風呂に入れよ」

題詠マラソン2005(1~10)




001:声
おはようと言う声ためらう小一の女児にとって他人のわれは
002:色
おばあちゃんの声色まねし狼の末路の哀れ思うときあり
003:つぼみ
ねこやなぎのつぼみの向こう銀色に光りて白鳥翔びたちてゆく
004:淡
根尾谷の淡墨桜見にゆかん日々を指おりかぞえておりぬ
005:サラダ
サラダよりおひたし欲しき年齢になりたることの徒惑いにいる
006:時
水滴で時を表すトンパ文字わが生れしよりの途切れなき水流
007:発見
右頬に染みふたつみつの発見をしてより今朝の鬱がはじまる
008:鞄
勤め人という言葉のありき亡き父の鞄はつねに重たかりしを
009:眠
旅のまえ眠らなければ 眠れない 朝刊配りのバイクの音が
010:線路
単線の線路どこまでつづく町ジジババばかり増えしわが町

ツネ子



「おばあちゃんでしよう。またトイレ流さな
かったの」
 おかあさんがなんか騒いでいる。わたしお
ばあちゃんじゃないのに。縁側でおはじきを
していた、ツネ子は振り向いた。
 おかあさん、この頃おばあちゃんに文句ば
かり言ってる。どうしたのかしら。
 昨日の夕食の時も、おかあさんは、
「そんなに頬張っちゃだめ」とか、
「ほらほらこぼさないで、蛸はおばあちゃん
に噛めないから」とか、煩かった。
 おとうさんは黙ってビールを飲みながら、
その蛸の足を食べている。
 ツネ子も、マリ子やノボルが美味しそうに
食べているハンバーグより、蛸のほうが好き
だった。けれど、おばあちゃんと一緒に蛸を
やめておこう、と箸をおいた。
 日当りの良い縁側で、うつらうつらしなが
らツネ子は昨夜の続きを考える。
 夕飯の後、おかあさんはマリ子とノボルに、
「テレビ見てないで、早く宿題やりなさい」
 と、言っていた。それでツネ子が、
「わたしは宿題しなくていの」
 と、聞いたら、おとうさんと顔を見合わせ
て黙ってしまう。
「おばあちゃん」「マリ子、ノボル」
 おかあさんは一日に何回も呼ぶけれど、
「ツネ子」って一度も呼んでくれない。もし
かしたら、本当のおかあさんじゃないのかも。
 ツネ子のおかあさんなら、髪を縮らせたり、
男のようなズボンをはかない。
 そして、おとうさんはいつわたしのおとう
さんになったのかしら。ノボルみたいにラン
ドセルを背負って「ただいま」と帰ってきた
のを、はっきり覚えているのに 

カトレア





 目が覚めたのは7時過ぎだった。隣のベ
ッドはもう空っぽ。夫はカトレアが気がかり
で、早起きなのだ。
 パッション、スカーレット、ゴールデンガ
ールなど、さまざまな交配種の花々。カトレ
アは定年後の夫の趣味だ。
 トーストにハムエッグとフルーツジュース
の朝食を整え、温室にいる夫を呼びにゆく。
 老眼鏡を掛けた夫は、カトレアについたカイ
ガラムシを退治していた。
 カイガラムシに喰われたところから、ウイ
ルスに感染して葉っぱが枯れてしまう。開花
直前のものが多いだけに、夫は葉の裏まで丹
念に見ている。
「カトレアって象徴的な花よね」
 食後のコーヒーを飲みながら、夫に言う。
「メイプル・ソープの撮った、カトレアの写真
を見たことがあるわ」
「ああ、エイズで死んだ写真家か。日本では
公開できない作品もあるんだろ」
 夫は花のカタログから目を離さずに答える。
「これは、ビロード状で暗赤色のリップが魅力
的だってさ」
「ちょっと、品がない花ね」
 食器を流しに運び、洗いはじめる。夫はまだ
カタログを見つめている。
 鋏を手に温室のドアを開ける自分を想像
した。洗い物の手を止め夫に聞いてみる。
「ねえ、もし誰かが蕾を全部切りとったら、
あなた、どうする?」
「別にどうもしないよ。来年また新しい花が
咲くのを待つよ」
 夫は椅子から立ちあがり、温室に戻ってい
った。わたしは夫が置いていったカタログを
開く。育て方さえ誤らなければ、カトレアの
寿命は60年以上ある、と書かれていた。
 

ジジのつぶやき




「草取りをしなくちゃね」
 ババがつぶやく。ババがこう言いだすとき
は、オレに草取りをやれ、という意味だ。テレ
ビを消して、庭に出ようとすると、
「なんで消すのよ。まだ見てるのに」
 自分は炬燵にもぐりこんで、テレビを見つづ
ける気だ。
「たまには、手伝えよ」
「花粉症がひどくて」
 ババは鼻のつまったような声をだす。オレ
のみるところ、ババの花粉症はババの都合で
どうにでもなるようだ。自治会の掃除当番の
時などは悪化して、オレにやらせる。そのく
せ、友人と吟行に出かける時は、平気なのだ。
 草取りがあらかた終わる頃、ババは庭に出
てきた。大きなマスクに、ゴーグルまで掛けて
いる。オレの手元の草を見て、
「これ、ヴェロニカじゃないの」
「ヴェロニカ?違うよ。オオイヌノフグリと
いう帰化植物だよ」
「ふぐりだなんて。今はヴェロニカって言う
のよ。マツオさんが教えてくれたわ」
 おい、マツオって誰だよ。苗字か名前か。
少し慌てたが、ババの俳句仲間と気づく。彼
らはお互い名前で呼び合うらしい。
「マツオさんの俳句、とっても現代的でセン
スがいいって、褒められているの」
「へぇー」
「ホシノヒトミとかルリカラクサって名前も
あるのよ」
 まったく、オオイヌノフグリでどこが悪い
のだ。オレは茶の間に戻って、植物図鑑を開
いてみる。なんだ、ヴェロニカは別の花じゃな
いか。
 ババはオレの傍で指を折りながら、ヴェロ
ニカや、などとつぶやいている。


ジジのつぶやき




 洗濯機を廻す音で目が覚めた。枕もとの時
計を見る。6時30分。隣のベッドにババの
姿がない。うーん、どうしたことか。ババが
オレより、早くおきるとは。
 オレの定年後、ババの起きるのは、たいて
い8時過ぎ。オレはその1時間以上も前に起
きて、雨戸を開け、部屋を暖めておく。
 ババの寝坊の言い訳はきまって、夕べは寝
つきがわるくて、だ。いつも、今日は疲れた
から、早く寝るわ、だろ。オレが寝る頃は、
高いびきじゃないか。
「出かけるから、早くご飯食べて」
「どこへ行くんだ」
 言いかけて、2,3日前の新聞記事を思い
出した。テレビを見ていたオレにババが差し
出したものだ。<夫が外出する妻に、どこへ
行くのか。何時に帰ってくるか、飯はどうな
るか、聞いてはいけない>と書いてあった。
 ババは昨日、友達と長電話していて、ヨン
様がどうのこうの、と言っていた。それなら
オレもババに言ってやる。
「夕飯は心配しなくていいよ」
「囲碁の集まりがあるって、言ってたわね」
 ババはうなづく。囲碁クラブは男ばかり、
とババは思っているようだ。最近は女性の会
員も増えているのだ。皆、ババより若い。
「ちょっと、ジッパー上げて」
 ババが背中を向ける。いつの間に買ったの
か、真っ赤なワンピース。ババの髪の天辺が
薄くなっているのに気づく。
 このことをババに知らせるべきかどうか。

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